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2007年5月30日 (水)

こみなとレンジャー「骨のおもひ」

こみなとレンジャー「骨のおもひ」 ロクソドンタブラック

 舞台から見て客席の側に仏壇があって、姉妹らがそれぞれ客席に向かって手を合わせて亡き母への報告を行うというのは、なかなか面白かった。約1時間とコンパクトな芝居の中で、3人の姉妹のそれぞれの性格や抱えている問題はよく描かれていたといえるだろう。
 しかし、決定的に意味不明な出来事がある。人気番組「ロックは無用」のレポーターとして山本家に闖入する男(大木隆義)の存在。これが実は次女・晴美(角ちひろ。演劇農耕者所属)の不倫相手、お腹の赤ちゃんの父親で、少なくとも直前までは音信不通だった男だという設定になっている。どう考えてもおかしいのだが、それを承知でこうしているわけだろうから、どこかに抜け道でも作っているのだろうか、なかなか見つからない。おそらく最初の登場の時に、晴美は驚きあわてふためいていたり、何らかのサインを出していたのだろうが、ぼくは見落とした。2回目の来訪では、男は食卓の豚すき焼きに目を付け、晴美に「あーん」と食べさせたりして、ひどく奇妙な違和感を出している。この時この二人は他人のふりをしているが、実は訳ありだったということになるわけで、このあと男から晴美に電話がかかってきて晴美が喜ぶという展開になるのだが、設定の上からも演技においても、説得力に欠ける。男のレポーターとしての登場自体が茶番あるいは偽物だったようではあるが、話がつながらない。
 さらに、押入れに潜む謎の男(白木原一仁。ななめ45°所属)も、突然押入れから三女の時雨(ふじまるしの。七月ハリケーン所属)と入れ代わりのように現れる。喪服を着ているので、おそらく亡母の夫、つまり十七回忌の法事なのにリビアに行っていて帰って来れないことを電話で話していて、長女の曇子(野中摩耶)に非難されていた父親ではないかと容易に想像はつく。それでいながら、劇の上では姉妹の前には現れず、古い隣人で幼馴染の新進弁護士、今は時雨の監視役である大風(村上晶夫)にしか現れず、最後まで素性は隠す形となっている。時雨と入れ違いのように押入れから現れるというところから、時雨に何らかの深い思い入れなり関わりがあるのかと思うが、そのような素振りはない。どう解釈したらいいのか、にわかにはわからない。
 このような決定的な謎や矛盾を抱えることで、劇がとんでもない発展的な変容を遂げることはあるだろう。一つはその矛盾にあっと驚くような合理的な解決策を出して収束させるという方法。また、矛盾は矛盾のまま、それを他の出来事が押しつぶすような力で圧倒するという方法。他にも、矛盾を間違いだったとおちゃらけて引っ込めるとか、いろいろあるかも知れない。しかし、ここではおそらく、あえて矛盾を矛盾のまま突っ切って、ハッピーエンドとした。それは、ある意味では強さとさえ言えるかもしれない。あるいは、破綻や矛盾を突っ切る強さがこの劇を作らせたといえるかもしれない。その強さ、作者(野中摩耶)が描きたかったことと、何だったのだろうか。
 タイトルからして、骨となった母の存在に、いつまでもこだわりすぎている長女・曇子が「お母さんやったら、許さへん」と言って妹たちを縛りつけてきた(と晴美が言う)のを、その母への思いは思いとして尊重しながら、もうそれは骨になってしまっているものなのだから、もう少し自由に大らかに考えてみてはどうか、曇子自身、それに囚われすぎているのではないか、というような大風の(弁護士らしい)理にかなった説得がなかなか印象的で、この一節がこの劇のピークになっていたものと思われる。だが、奇妙なことに、その切々としたはずのシーンの印象が妙に薄く、男は実は…という謎解きばかりがドタバタと印象に残ってしまったのが、残念だった。
 レポーターと父親らしい男、この二人に共通しているのは、舞台となっている山本家の敷居が高いということか。押入れの男は、本来ならば一家の長、世帯主であるはずなのだが、曇子に「吟遊詩人」と評されており、娘たちを放ったらかしてきたのだろう。母の死後十数年、一家を支えてきたのは曇子のようだ。レポーターは晴美と不倫、妊娠させて連絡がつかないという状態なのに、照れ隠しだか何だかわからないが、このような登場の仕方をしている。この二人には、特に登場に関してかなり意識的に無理のある設定がされているが、もう一ひねりして深く書き込めば、魅力的なゆがみの強い存在となって、劇自体が不条理性を帯びて別種の魅力を持てたのではないかと思う。
 もう一人の男性、大風は秀才のようで、司法試験に最年少記録で合格したというふれこみである。おそらく最近テレビに出ているような若手弁護士を意識したのだろうが、弁護士に見えないような風体をして、軽い人間に作っているのが、劇としてはどうか。もちろん、会話の端々には、何となく理論的というか、理路整然としているところはあるが。数年前から極端な対人恐怖症の時雨のお守役として時雨の近所に住んでいるようだが、晴美に思いを寄せていて、お腹の子どもを自分の子どもとして認めて結構しようとまで思っているが、相手にされない。
 大風をめぐる男女の思いはなかなか複雑で魅力的だ。しかし、時雨の大風への思いは、回収されないまま終わってしまった。大風の晴美への思いも宙ぶらりんのまま、強引な闖入者によって中断されてしまった。これはちょっと残念だったと思う。無道な闖入者であるレポーターの男は、最後まで謎のままで、観客としては感情移入ができない存在であるが、大風に対して多くの観客は、ずいぶん長い時間を過ごす中で愛すべき存在になっており、いろいろあるだろうけど晴美と一緒になればいいのにと思っていただろう。それを断ち切るだけの魅力的なエンディングを迎えることは、残念ながらできなかったように思う。
 短い上演時間の中で、晴美の手土産の手羽先ういろう飴云々だとか、あまり関連のないエピソードが案外多く、もったいないような気がした。笑いを必要とするのであれば、登場人物のキャラクターを深め、膨らませるために、もっと慎重に描きあげてほしい。
 時雨のふじまるは、思い切った極端な演技が面白かった。対人恐怖をカラッとユーモラスに処理できたのがよかったのだろう。晴美の角は、堅実でしっとりといい演技だったと思うが、エステティックサロンを開業したばかりだとか、よくもてたというようなあたりから、もう少し派手な装いでもよかったように思う。曇子の野中は、受け身の演技が多く、作・演出と兼ねているので、演じきることの難しさはあったかも知れないが、特に後半で怒りや苛立ちを爆発させるような演技で、迫力はあったものの、唐突で不自然な印象もあった。父親らしき謎の男の白木原は、姿もよく迫力もあって、好演。もっと見たかった。

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