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2007年7月25日 (水)

ハキダメトレイン「SCHOOL GIRL BYE BYE」

6月23日 ロクソドンタブラック

 生き返った死者=ゾンビの存在を日常の中に設定し、自殺してゾンビになった青年・小林の純愛とアイデンティティ・クライシス、彼を成仏させよう(=再び殺そう)と探している兄との応酬、納豆を椅子の上に置かれるといういじめに遭っている転校してきた女子高生ユミ、そんな物語が、スピーディに、しかも強烈な納豆のにおいの中で展開するという、破天荒な芝居。シリアスで叙情的な部分と、破壊的なギャグのコントラストが面白かった。
 ユミがいじめられるきっかけになったのは、転校初日、通学路で走っていて男子生徒とぶつかり、そのはずみで納豆のパックが頭についてしまったのを気づかないまま、クラスで「茨城から来ました。好物は納豆です!」と自己紹介をかましてしまったものだから、みんながリアクションに困って避けるようになり、次の日からユミの椅子の上には納豆が置かれるようになってしまった、ということだそうだ。むちゃくちゃな設定と、いじめの一因のリアリティのバランスが、なかなか好ましい。また、ここで全力疾走する男子生徒の姿が、ラストの小林の全力疾走と重なるのも、なかなか秀逸。
 一方のゾンビたちだが、微妙な師弟関係にあるようで、師匠格のほうはアパートの大家として生計を立てており、小林は居候的な存在。上階には女子高生が住んでいるらしい。
 高校生の間で、通り魔がいて、小指をかじられたという都市伝説的な噂が広がっていて、ユミをいじめているマナ、カナは盛り上がっている。ある夜、カナが襲われる。
 物語が展開するのは、小林がユミへの恋に落ちるところからだ。日光に当たると煙を噴いて溶けてしまうゾンビである小林は、夜中にしか出歩けないので、新月の夜に森に出かけると、ユミが丑の刻参りの装束で藁人形に釘を打っているのに出くわす。そこでの短いが印象的な会話で、小林はすっかり恋に落ちてしまうのだ。その後の場面で、小林が「2人で星を見るのに慣れて、1人じゃ、さびしい」と呟いて、生きるということを考えるところなど、非常に叙情的でありながら、一度死んだゾンビが生きるととは何かを考えるという根本的な矛盾がおかしくて、切なさが増幅する。また、2人は闇の中で会っているので、姿を見たことはないということになっている。ユミの「背中から声が聞こえる…支え合っているような」という独白、これは相手がゾンビであることを知らないから普通の恋の思いの吐露ではあるが、観る者はこの2人が支え合って生きていくことなどできないことを知っているから、なお切なくなる。うまい設定である。
 終盤で、小林はユミに顔を見せることになる。ゾンビだと告げる彼に、ユミは「関係ありません」と言い切り、小林は「俺の目を見て言える?」と帽子、包帯をとる。ユミはじっと小林を見つめて「やっと会えましたね。はじめまして」と言う。『ファントム』(オペラ座の怪人)なら悲鳴とともに女が駆け去るシーンだ。これを甘いと言わせない力が、この劇にはあった。この後での小林の泣き、すばらしい演技だった。
 ユミが何を呪っているのかは明示されていない。普通に考えれば、自分をいじめているマナやカナを呪っているということになるのだが、どうもそのようには見えてこない。ユミは入院したカナを見舞いに行くし、マナはユミに謝りたいと思っていることを舞台では見せており、このいじめの関係を劇の中では決定的なものとは描いていないように思われる。理由のないのろい、存在への不快、といったものなのだろうか。
 続くシーンでユミは、この劇の冒頭で仮面の男がしていたように、首を吊って死のうとしている。時間を前後させるか先取りして、彼女が小林の行為を追体験(未来体験)しようとしたと考えられなくもない。それを止めようとする大家とのドタバタ、真面目くさっているユミと、ゾンビであることを言えずにしどろもどろしている大家のコンビが大変面白かった。よく劇の中で、前後の脈絡なく(と思えるように)アドリブコーナーとかお笑いのシーンを挿入して息抜きをさせるものがあるが、だいたい成功しない。日常の中には必ず笑うような時間があるのだから、それをうまくデフォルメして挿入すればいいのに、わざわざ劇の流れを切ってまで笑いを促すのは理解できない。その点、ここでの笑いは、ゾンビであることから必然的に導き出されるもので、腑に落ちもし、劇の流れに乗っていてよかった。
 小林の兄がいよいよ小林を殺しに来るところでは、兄のあくまでクールな演技にやや違和感を持つが、それも弟への熱い思いとのアンビバレントな思いを押し殺した表情であったようだ。ここでの兄弟の議論はなかなか熱く、人の生き死にということ、自殺ということ、自殺された家族の思い、などを余すところなく掬いとっているようだ。自殺してゾンビになった弟が「こんな姿になってやっと自分のやりたいことがわかった」とか、「生きてるってことが楽しいと思えるようになってきた」とか、「死にたくないんだ」と言うのは、大いなる矛盾だが、その矛盾をきっちりと成立させているのがいい。
 最後はいささか強引だが、兄がユミを人質に取り、明日の昼迎えに来ることを約束させる。ゾンビは日光に当たると死ぬということを知ってのことである。もちろん小林は、自殺的行為をとる。滑稽なのは、日焼け止めを塗ったり、傘をさしたりすることなのだが、アパートから森まで、全力疾走している間に死んでしまわないように、少しでも日光の摂取を防ごうという処置なのだ。こういう滑稽さは、悲しい。そして、疾走するゾンビは、納豆やらペンキやらでドロドロになってユミのもとにたどり着き、ドロドロの小林をユミは抱きしめ、すさまじい納豆のにおいの中、小林は息絶える。劇の中でも、本当にゾンビの腐臭がしていたにも関わらず、ユミは小林を強く抱きしめたんだよ、ということがよくわかり、それを強調したい作者の声が聞こえてくる、劇として衝撃的なエンディングだ。
 これまた余計なことかも知れないが、当日配布のプログラムでキャストと配役がわからなかったのは、不満。また、開演前に仮面の男が舞台上で火のついていないタバコをふかしてスタンバイしていたのだが、立ち方、居方のスタイルができておらず、また観客への態度も不明瞭で、非常に雰囲気が悪かったのは、マイナスだった。もったいない。

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