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2007年8月 5日 (日)

七月ハリケーン「咲くや此の花」

ロクソドンタ・ブラック
 男女の様々な愛のありようを描いた、三話オムニバス形式の短編集。テーマだけでなく、妓楼の一室とした舞台美術(上杉龍。増田組)が一貫して使われたことからもわかるように、遊郭の女と客のやりとりを題材としている。舞台美術はずいぶん凝っているようで、障子、布団、燈火、屏風など、多くの小道具が不規則に乱れ置かれていて、ちょっと別世界のような廓の一室の濃密な雰囲気が出せていた。衣裳(植田昇明)やヘアメイク(白野景子。ミジンコターボ所属)も華やかさの一方で影があり、うらぶれた悲しさと美しさが出ていた。
 第一話「若松と先生」は、太宰治らしき先生(寿寿。フランケンシュタイナー所属)が若松という女(花田綾衣子)との死に場所を探す話。
 第二話「藍染とろくでなし」は、藍染という女(白野景子)を殴りまくる大店のろくでなしのぼんぼん(高橋明文。シアターシンクタンク万化所属)が藍染を捨てようとして殺され、女も死ぬという話。
 第三話「朱里と絵師見習い」は、絵師見習いの青年(平宅亮。本若所属)が、かつては一番人気だった花魁の朱里(野中摩耶。前 こみなとレンジャー所属)に惚れ込んでしまうが、朱里は生来の気の強さと過去の栄華が忘れられないのとで青年を寄せ付けないのだがやがて…という話。
 三話を通じて、廓の女の一途な姿や少し歪んだ姿と、男のみっともなさや一途さが描かれていた。公演チラシの「男と女、やることは一つ」という思わせぶりなキャッチコピーから、もう少しきわどい内容になるのかと思っていたが、それほどでもなかった。
 第一話では、何度か挿入される映像が「いい旅・夢気分」のようだったり、「サザエさん」のテーマ曲が流れたり、洗剤のコマーシャルのニューファミリーみたいだったりして、劇の感興を削ぐ結果になったのは、理解し難かった。劇への興味が深まろうとするのを、なぜ止めるのか、しかも演劇ではなく映像で。そういうことをする以上、そこには何らかの実験的精神があり、それによって新たに生まれる価値というものが想定されなければならない(失敗に終わったとしてもだ)。しかし残念ながら、なにがしかの情緒を出そうとしていることは想像できるものの、全体を規定するトーンが定まらず、どういう世界を作ろうとしているのか、舞台美術以上のことはわからない。心中を前にした男女の他愛なくありふれた日常的な様子を淡々と描いたにしてはバタバタしていたし、深刻さに陥らないようにばかりしていたようだ。ただ、若松役の花田はいい雰囲気を出していた。ちょっとポワーンとしたダルい空気を醸し出し、じわじわと先生を追い詰めていくような怖さがあった。
 第二話では、男の殴る姿がテニスラケットでも振り回しているようで、観ていた子どもが笑っていたが、どうにも様にならない。殴られることを藍染は喜んでいるように見えたから、男にもっと異常性が見られてもよかったように思う。男が商売に成功したのも束の間、贈賄だかなんだかの不正が摘発されて取り潰しになり、藍染のところへ別れを告げに来たが実は他の女と上方へ逐電する段取りである、という背景がややまだるっこしく、余計なもののように思えた。また、時々スタンドマイクに向かって独白するが、マイクの効果については不明。最後に剃刀で首を抉られた男が「今のお前、一番かわいいよ」と言うが、ちょっと唐突に思えた。ここまでのやりとりの中で、劇の流れに余白やゆるみがなく、結果的に余韻や言外のドラマを感じさせることがなかったからではなかったか。殴打を通じてでも、もう少し深みや屈折が出てくればよかったと思う。
 第三話は出囃子から始まったので、落語家の話なのかと思っていたら、美を云々したりするので、かろうじて絵師見習いというタイトルを思い出す。ただの着流しではなく、何かそれらしい衣裳はなかったものだろうか。絵師見習いの平宅は、容姿端麗で、一目で恋に落ちたまっすぐな青年の前のめりな純粋さがよく出ていた。朱里の野中は、気の強さ、プライドの高さはよく出ていたものの、こみなとレンジャーで出ていたときにも同様なことを感じたが、激昂するシーンになると、ただ大声で喚いているだけというか、演技でないものが透けて見えるようで、物足りない。「激昂スイッチ」をONにしたように単調で、迫ってくるものがない。終盤で青年の持ってきた薔薇の花束で青年を殴りつけ、舞台に花びらが飛び散るのは視覚的にも美しかった。
 全体を見終わって、三話あったにもかかわらず薄い印象しか残っていないのは、多少のセンスの良さは感じられても、驚きがなかったからだろう。男女の関係の本質を、醜さでも美しさでもえぐり出すような鋭さ、役者をぎりぎりまで追い込むような厳しさ、観ていてキリキリ、ハラハラするような興奮を感じられず、ありがちなお話が並んでしまったような物足りなさが残った。

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