« 神戸女学院大学音楽学部舞踊専攻第2回公演 | トップページ | 不自由な身体とはいえ »

2007年12月 8日 (土)

妄想プロデュース「ノア」

妄想プロデュース「ノア」 芸術創造館 12月7~9日

 千石イエス亡き後の「イエスの方舟」の女性信者が経営するスナックを舞台に、千石が強調した「自己肯定」を正面から取り上げるために、新たな信者たちとして3人の男性ボクサーを加えた。一人はその拳で傷害事件を起こしてリングを追放になってしまっているようで、終始覆面をしている(衛藤眞平)。一人は勝ち続け、その芸術的な右ストレートはモーゼの一槌のように水の流れをも開くと称されている(池川辰哉。作・演出も)。しかし彼自身はその拳を肯定できず激しく苦悩する。もう一人は、その彼をモーゼと称えながら、自身の無力さに絶望している(正木太一朗)。
 設定にも展開にも非常に多くの無理や破綻があり、一貫性をたどることが難しく、失敗作とは言わないまでも、破綻した作品というのはたやすいが、痛切に感動した場面が数カ所ある。
 千石イエスが慕われたのは、彼が自分についてくる若者たち(女性)の話を聞き、肯定したからだ。「私なんか…」と自分を否定し、「どうせ」と諦める彼女たちの話に耳を傾け、何らかの言葉や表情によって、彼女たちに自己肯定、「あなたはここにいていいんだよ」というメッセージを送ったのだろう。「おっちゃんだったら、何て言っただろう?」と問いかけるようなセリフが出されたとき、彼女たちの闇の深さが推し量られる。
 また、池川演じるボクサーが「肯定しろ、肯定しろ」と繰り返し叫びながら拳を床に打ち付ける場面からしばらく、闇の深さとそこからの救済の苦さは切ない。破綻とばかり言っているが、実は彼が拳一つを自身のアイデンティティとして自己否定から自己救済へと至る過程は、実際にリングで倒され、テンカウントぎりぎりで正木らに「モーゼ!」と呼び覚まされて起き上がり、勝利を得るという、ストレートな筋道で描かれている。しかし、事実による相対的な勝利から得られる自己救済は長く続かない。池川の咆吼は真に迫るものがあり、これにつながる時間を作り上げただけでも、この芝居をやった意味があったというものだ。
 いよいよ山尾彩子演じるホステスがスナックを閉めることにし、コップにおっちゃんが好きだった酒を延々と、あふれてもあふれても注ぎ続けるシーンもまた切なく美しい。その後、拳を交わす3人のボクサーに、3人のホステス(山尾、鎌田恵弥、小田亜優美)がバケツの水をかけるシーンも、全くわけが分からないが無理矢理にでも感動させてしまう力技だ。水を注ぐ女というメタファも、頭から水をかぶるという行為も、共に何かを深くあらわしているのだろうと思われ、彼ら彼女らの自己獲得のためのどろどろの闘いの末に行為された儀式として、神聖なものに見えた。3人のホステスがバラバラに水をかけたが、一斉にかけた方が力強さが増したのではなかったか。
 電車のあまり止まらない駅で時間をつぶしているキオスクのおばちゃん(三井亜子、演劇集団TSUBASA)、白塗りした新卒社会人たちが電車を待ちながら新聞の誤植を探し、あるいは聖書の話を少し持ち出したりするのは、イエスの方舟という閉鎖集団に対する外部を象徴しようとしたのだろうが、今一つ緊密には噛み合っていなかったように思う。また、ホステスの衣裳がペラペラして、ホステスらしくなかったのも残念。
 舞台中央に終盤まで白布をかぶせられているオブジェの中身は、燃え尽きた明日のジョーのような、しかし真っ赤な人形だった。本当はこれがおっちゃんで、生身の役者であってもよかったような気がする。不在のおっちゃんをめぐる芝居だから、それを絶対に出さないという潔さは買うが、思わせぶりに最後まで引っ張ったわりには、布の中のオブジェが軽いように思った。おっちゃんといえば、覆面をした元ボクサーと山尾演じるホステスは、1年ほど店を留守にしていたようだし、覆面は池川演じるボクサーの罪をかぶっていたようなフシもある。もしかしたら、覆面は、もう死んだはずのおっちゃんだと考えてもいいのかもしれない。深読みで誤読かもしれないが、筋がたどりにくくあいまいな点が多かったので、いろいろな読み方ができる。それを長所として楽しむこともできる。これを失敗作というなら壮大な失敗作だと呼びたい。

■ミニクラフト 1/350 ノアの方舟 プラモデル

|

« 神戸女学院大学音楽学部舞踊専攻第2回公演 | トップページ | 不自由な身体とはいえ »

コメント

観に来ていただきありがとうございました!
自分さえ、気づかなかった新しい見解や、台本の粗など、非常に勉強になりました。
また、公演する際も、ご案内させていただきます。
もしお時間よろしいようでしたら、お越しください。
この評論を読むのが、公演終わりの楽しみの一つです。
ありがとうございました。

投稿: 池川辰哉 | 2007年12月10日 (月) 17時45分

池川さん、どうもです。

あんまりそんな、シタ手に出ないでください、緊張します(笑)。

読みを全然間違えてるところとか、「ここを見てほしかったのに」というようなことがあったら、教えてくださいね。

投稿: じょーねん | 2007年12月18日 (火) 01時19分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/100532/17302665

この記事へのトラックバック一覧です: 妄想プロデュース「ノア」:

« 神戸女学院大学音楽学部舞踊専攻第2回公演 | トップページ | 不自由な身体とはいえ »