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2008年9月 5日 (金)

「ダンスの時間」お話の時間(8月5日)

 公演に先立って8月5日(火)に実施された「お話の時間」の簡単な記録です。

 話題提供=古後奈緒子、小林昌廣、樋口ヒロユキ、上念省三

 古後さんからは、まずジョルジュ・ドン「ボレロ」(モーリス・ベジャール振付)の映像から、卓越した身体技術をもったダンサーを中心に、同心円状にダンスが波及していくという劇場構造が成立しているという分析を枕に、踊る者と見る者の相互的な関係に注目してダンスを考えるという視点が提供されました。その上で、「ボレロ」の関係を逆転し、身体技術ではなく視線に対する意識により踊る者が組織されてゆく過程を示した「ノリコボレル」(双子の未亡人振付)、映像や空間の利用などにより観客に見る者/踊る者の間を行き来させた『Flower Picking』(珍しいキノコ舞踊団振付)に、鑑賞における参加の多様なあり方が紹介されました。

 上念からは、音楽の世界でコンサートが演奏者の超絶技巧を披露する「究極の催事」となっているとするエドワード・サイードの所説(『音楽のエラボレーション』)を紹介しつつ、ダンス公演がもし同様の「究極性」を持っているとすれば、それは身体運動の超絶的なテクニックを披露することによってであろうが、コンテンポラリーダンスにおいては、そのような超絶性を回避し、あたかも日常的身体であるような動き、空気を見せることで成立しているような舞台も多いと思われる。何が日常的身体を芸術的(舞踊的)身体に変容させるのか、という問題提起がされました。

 美術評論家の樋口さんからは、日常的身体についての自己の身体意識というものが、なかなか一筋縄でも一枚岩でもなくなっているのではないかという問いかけを、リストカッター等への取材を通じて実感しているということから、ディル・アン・グレイ、マリリン・マンソンといったゴシック系バンドのミュジシャンがステージ上で自傷行為をしたり観客とSM行為を行うこと、BONJIN(BABY-Q、の衣裳担当)のスプリット・タン(小説『蛇にピアス』で有名になった、舌に大きなピアスホールを開け広げ、ついには舌先が分かれてしまう)、舞台上で身体に鈎針を刺して吊り下げるというサスペンション・パフォーマンスからある種の聖的な感動を覚えること、ルーカス・スピラという頭頂部にネジを差し込むようなスカリフィケーション行為を行っているパフォーマーがアメリカンネイティブの伝統的行為(通過儀礼)との共通性を語っていること、等が紹介されました。
 それらは共通してボディ・ハクティヴィズムと呼ばれているそうです。ハクティヴィズムとは、hack(ハッキング、の)+activismで、自らの身体を自らハックする行動主義、身体や生死を社会や医療から奪い返すという意味。現在の身体意識というものについて、ある種の極端さの中に、非常に示唆深いものがあり、圧倒される報告でした。

 最後に小林さんは、以上を整理・総覧しながら、観客論、ダンサーの身体意識、観客の自己意識、医療とハクティヴィズム、アートセラピー、等について言及しました。以下、断片的に紹介します。
 美術で二次的なメディウムを使わずに、身体を直接的に行為させるものとしては、現代日本では具体の白髪一雄ら、篠原有司男らが挙げられるが、そのパフォーマンスとしての身体意識も興味深い。
 観客は観客という役割に拘束され、劇場の中では大きな制約に縛られていること。観客は劇場の中で自分の存在を意識することはあまりないが、かつて蜷川幸雄は舞台に鏡を設えて客席を写した。客電を消すようになったのは、ワーグナー以後だったはず。
 ダンサーの身体意識には3つの層がある。図式的に言えば、「私」、対他的な他者から見た私、空間との関係性の中の私、である。
 芸術療法(アートセラピー)は、身体の側からかたまりを溶かし・ほぐしていくということが重要で、身体が緩むこと・弛緩することが重要。会話による療法ばかりが重視されているが、身体性が重要で、心のケアは言葉からだけはなく、身体からの「外し」がないと無理である。

 その後、役割的に、古後さんが日常的身体延長による観客参加型ダンスの擁護派、上念が超越的な技巧による舞踊的身体追求派みたいな感じに分かれたりして、1時間強のフリーディスカッション、近所の居酒屋に場所を移しての与太話と、終電近くまで話は続いていきました。

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