« 鳴海じゅん×毬穂えりな 「Early Spring LIVE」 | トップページ | 宝塚歌劇星組新人公演「黒豹の如く」 »

2015年3月28日 (土)

宝塚歌劇星組『黒豹の如く』『Dear DIAMOND!!』

2月17日

 作:柴田侑宏、演出・振付:謝珠栄
 作・演出:藤井大介
主演:柚希礼音、夢咲ねね

Poster

 三拍子(歌、ダンス、演技)も四拍子(+ルックス)もそろった華のある存在で、丸6年という、近年では異例の長期にわたってトップコンビを務めた柚希礼音(ゆずき・れおん)、夢咲ねね(ゆめさき・ねね)の退団公演で、連日多数の立ち見が出、異様なまでの熱気に包まれた公演となった。

 第一次大戦後のスペインを舞台に、「黒豹」の綽名を持つ硬派の海軍大佐アントニオ・デ・オダリス伯爵(柚希)とかつての恋人で今は未亡人となっているカテリーナ(夢咲)が再会したことから、ドラマが始まる。

Yuzunene_2

 この設定だけで、既に激しい恋が燃え上がることがわかる。この二人の間に流れ横たわるもどかしさがたまらない。そういう、言葉に出せないもどかしさを、この二人は適切に演技で表現できるようになったというのが、退団公演に当たっての深い感懐である。柚希の声の深みは、そのまま思いや歳月の深みとなって胸を打つし、夢咲が出す低めの声は、微妙な揺れを伴って隠した感情を想像させる。今は社会的な地位や立場もあり、離れていた歳月もあって、再会してすぐにベタベタちゃらちゃらするような二人ではないが、随所に垣間見える抑え切れなさが、たまらない。このあたりの演出、演技というのは、心憎いばかりである。

 黒豹アントニオに、資産家の伯爵ビクトル・デ・アラルコン(紅ゆずる)が近づき、ヨーロッパで近年進境著しいある勢力(もちろんナチスを想像させる)が海軍大将に招きたいとの申し出があるのだが、と近づいてくる。彼はまた、カテリーナにも横恋慕し、あらゆる手を尽くして彼女を我が物にしようとする。

 二番手格の紅には、また損な役ではあるが、二番手の悪役というのは、おいしい役ともいわれている。主役とは対照的な色を強く出すことができるからだ。このビクトルという伯爵は、爵位を金で買ったとまではいかないかもしれないが、金に飽かせて無理を通すようなやり方で渡ってきた男なのだろう。以前の紅の役で言えば、『オーシャンズ11』 のテリー・ベネディクトに似ている。その時にも課題であったし、今もそうであり続けているように思われるのが、悪役が悪役なりの懐ろの大きさ、人間的魅力を帯びることができるかどうかという点だ。こういう印象はどうしても主観的な好き嫌いに左右されることが大きいので確かにとは言い難いが、たとえば放り上げたハンカチを掴む時に、取りに行くのではなく落ちてくるのを待つようなことを、ぼくたちは大きさだと見ている。そういうことを紅は、まだできない。だから神経質で器の小さなボスであるように見えてしまう。それでは主役に対峙できないし、彼についていっている者たちの了見も疑われてしまう。

 カディスという、スペイン南部、アンダルシア地方西部の大西洋岸にある小さな町では、スペイン最大といわれている仮装カーニバルが開かれ、そこに皆が集まることになる。その雑踏に乗じてビクトルはアントニオを監禁し、カテリーナを拉致しようとしていたのだろう。しかしアントニオの同期で実はビクトルの動きを内偵していたセバスチャン・デ・ディアス(十輝いりす とき・いりす)の働き等によって現場は混乱、最後はアントニオの愛人だった女優のアルヴィラ(妃海 風 ひなみ・ふう)がアントニオを銃で撃ち、一件落着ということになる。

 ここでも十輝の抑えた演技が秀逸だった。また、次期トップ娘役が決定した妃海は、これまでと違って目を細く描いてクールさを強調し、見違えるほどの個性を出した。歌や演技のうまさには定評があっただけに、見た目にこれほどの幅広さが出てきたことは、トップ就任後に様々な役がついた時の変貌ぶりが俄然楽しみというものだ。

 さて、一件落着のはずなのだが、「アントニオとカテリーナはやっと穏やかに暮らせるようになったと思われたが」というような思わせぶりな影アナの後、アントニオはモロッコ戦線に招集され、あわただしく去っていくことになる。退団に合わせた設定である。娘役も退団するのに、男役だけ一人去っていくという設定であるのは、男役至上の宝塚では不思議ではない。ただ、少し気になるのだが、何度もアントニオは「また戻ってくる」と言う。あまり強調されると、かえってほんの少し、ざわつく。

 そういえば、チラシやポスターに「生まれ変わっても、きっと君を見つけ出す」というコピーがあることもあり、アントニオがモロッコで落命するのではないかという不安が拭いきれず、ぞわぞわする。ただ、このコピーについては、よくよく考えれば、冒頭で大航海時代に活躍して「黒豹」と呼ばれていたアントニオの先祖(柚希)が姫(夢咲)を海賊の手から救出するというシーンがあり、その二人が時を経て生まれ変わってめぐり合って、また困難を乗り越えて結ばれる…という含意だと読めなくはない。

 作者の柴田侑宏は、美しい言語感覚をもって緻密な芝居を作る優れた劇作家だが、時々びっくりするような衝撃的なエンディングを用意する。今回も終盤、えっまさか…と不安になりながら見ていたが、特に悲劇は明示されなかった。こういうのを余韻とするのが、柴田の作劇術なのだろうが、退団公演でもあり、もう少しすっきりと終わらせてほしかったように思う。

 ショー「Dear DIAMOND!!」は、柚希をダイヤモンドのような永遠の輝きを持つトップスターとして称える、退団公演のショーらしい構成。オープニング、安寿ミラ 振付の「リベルタンゴ」をベースにしたスパニッシュのシーンがまず圧倒的。装飾のない黒燕尾は男役の正装といわれ、本当に華のあるスターは、このもっともシンプルな衣裳で光り輝くということから、男役スターの憧れといわれてきた。ダンスの実力も華も兼ね備えた柚希にとっては、最も相応しい幕開けだ。

Deard

 その後は、柚希の懐かしい場面をアレンジして再現したり、コミカルな面を出したり、さながらサヨナラショーのよう。特筆すべきは、柚希の2階席への「乱入」。1階の客席降りというのはよくあるのだが、2階席にトップスターが登場するのは、おそらく空前のこと。ファンを大切にした柚希の思いが染み渡る場面だ。柚希が作詞した、宝塚への思いを込めた新曲も披露され、別れを惜しみつつ、最後もまた黒燕尾で納め、彼女の魅力を再確認するボリュームたっぷりのショーだったといえよう。

 夢咲もまた、大人っぽさ、愛らしさ、おかしさなど、様々な顔を見せて、集大成的な公演にできた。彼女は決して何がうまいとか、器用とか、すごく美人というわけではなかったと思うが、トップ就任前に柚希と主演した『ブエノスアイレスの風』以来、柚希に必死にしがみつくような思いで付いてきて、柚希の相手役として唯一で最高の存在になりえたことが、すばらしかった。彼女の魅力を一つに絞れといわれれば、蠱惑的という他はないが、そのことの持つ幅の広さをすべて開示してくれたように思う。

 他の主だった退団者、音花ゆり、鶴美舞夕、海隼人の見せ場も多く、男役の女姿を楽しむこともでき、行き届いたショーだった。(舞台写真はサンケイスポーツのサイトから)

ル・サンク Le Cinq Vol.163 (新品大判雑誌)

ル・サンク Le Cinq Vol.163 (新品大判雑誌)
価格:999円(税込、送料別)

|

« 鳴海じゅん×毬穂えりな 「Early Spring LIVE」 | トップページ | 宝塚歌劇星組新人公演「黒豹の如く」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 宝塚歌劇星組『黒豹の如く』『Dear DIAMOND!!』:

« 鳴海じゅん×毬穂えりな 「Early Spring LIVE」 | トップページ | 宝塚歌劇星組新人公演「黒豹の如く」 »