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2015年3月28日 (土)

フェルディナント・ホドラー展

2月6日
兵庫県立美術館 

 実は、40年前に京都市美術館で開催された回顧展を観ている。向かいの京都国立近代美術館ではポール・デルヴォー 展が開かれていたという記憶がある。中学生だったぼくには、当然裸体の女性が林立しているデルヴォーのほうが刺激が大きく、印象にも強く残っているはずなのだが、デルヴォーの印象が起伏のないのっぺりとした平面のようで、すべての作品が同じトーンであるのに対して、ホドラー に対しては、その凹凸やドラマの激しい人生、特に彼の身の回りに絶えることがなかった死の影に強く引かれたことも、確かだ。20歳年下の妻(結婚はしていなかった模様)ヴァランティーヌが病み衰えていく様を克明に描き、40歳の死の床まで描き続けた眼ざし、初期の作品に窺われる生命の不在感など、深い泉の魔物に引き込まれるように魅せられていた。40年たって感受性がずいぶん鈍ったであろうこと、ダンスというものに関わるようになったことで、今回ホドラーとダンスの関係について、非常に興味深く観ることができたのが、大きな収穫だった。

 時代を通観すると、ファッション界においては、1906年にポール・ポワレ がハイ・ウェストのドレス「ローラ・モンテス」を発表、ウェストをきつく締めつけてきたコルセットから女性を解放した。相前後して、イサドラ・ダンカン らによるモダンダンスが始まっていた。バレエとは異なる自由な表現としての身体運動、女性による自立的な身体表現が注目され始めた時期。この頃、ホドラーの描く女性も柔らかな大らかさを獲得する。

Hodler1

 本展のサブタイトルが “Towards Rhythmic Images” (律動的なイメージのほうへ)となっており、ダンサー、人が踊っている様子を描いた作品が多く、リトミックの提唱者だったダルクローズ との交遊が強調されるなど、ホドラー像を死や夜のイメージから引き剥がし、リズム、躍動、ダンスの視点から捉え直そうというコンセプトが明快だったように思う。兵庫展のチラシ「恍惚とした女」(1911)はダンサーが踊りながら恍惚の境地に入る表情を描こうとしたものだったし、東京展のチラシは「ミューレンから見たユンクフラウ」(下、1911)で、峻厳な山容をリズミカルに描いたと評価されている名作である。

Hodler_tokyo




 そういうことになると今度は、リズムを描くとはどういうことか、ダンスを描くということはどういうことか、ということを考えさせられる。「恍惚とした女」は明らかにダンスの1シーンを切り取った写真的なフォルムで、ある動きの過程であることを感じさせるが、「オイリュトミー」や「昼」連作(「昼Ⅲ」)は、ポーズを描いてはいるが、そこにリズムがあるといえるのだろうか。静止した平面である絵画に、リズムは可能なのだろうか。 

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 ホドラーにおいて運動は、パラレリズム(平行主義)と名づけた反復が醸し出すリズム、象徴主義からの延長上であると思われる背景の植物の浮き上がるような不思議なフォルムによって、表現されているようだ。また、改めて「昼Ⅲ」を見ると、静止したポーズであると見るよりは、特に左の女性についてだが、日本風に言えば正座から横座りへの動きの流れの一瞬と捉えることも可能で、そう見ることによって「恍惚とした女」と同じく、ここに描かれていない、直前または直後の形が見えてくる。「恍惚とした女」と対になる「悦ばしき女」(1910頃)は後ろ姿を描いたものだが、ヴァランティーヌをモデルに、太ももから背中の線が非常にしっかりとしており、生命感にあふれていて、直前の動きのスピードがはっきりとわかるように思う。 

 ステレオタイプな締め方になるが、死の影に満ちた暗鬱な思考を外化し表現するための通路となったのが象徴主義的技法であり、その暗鬱をフォルムによって支えたのがパラレリズムという「型」の発見と獲得であり、ダンスという身体の躍動であったと思えば、絵画表現に連なる一連の芸術行為がこの人の生を支えたことは間違いないだろう。それにしても、やはり晩年になって人生の帳尻を合わせられるように、愛する女性が死んでゆく。それを描く。起伏の大きな、激しい人生だったことに嘆息しつつ
曲線と柔らかい色彩に再び魅せられる。

図版参照:http://www.fashion-press.net/news/10851

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