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2015年8月11日 (火)

宝塚歌劇団月組「1789-バスティーユの恋人たち-」

2015.5.24.

 原作:ドーヴ・アッティア、アルベール・コーエン
 潤色・演出/小池修一郎
 主演:龍真咲、愛希れいか
 宝塚大劇場(宝塚)

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 音楽のレベルの高さ、マリー・アントワネット(愛希)やロベスピエール(珠城りょう)、ポリニャック(憧花ゆりの)の造形をはじめ、すばらしいミュージカルであることに異論は ないのだが、いくつかの疑問点はある。

 主人公のロナン(龍)の恋人オランプ(サブタイトルにある「バスティーユの恋人」)は、娘役トップの愛希ではなく、早乙女わかばと海乃美月のWキャストで、農村出の青年を演じた龍とマリー・アントワネットを演じた愛希とはほとんど接点がないこと。悪いことではないが、宝塚では異例なことだ。早乙女も海乃も、全く悪くはなかったのだが、相手役が一般的な意味で小粒というか格下であったことで、反照として龍に大きさが感じられずに終わったのではないだろうか。

 演出面についても気づいたことがある。冒頭で時間の流れを先取りして、ロナンがバスティーユの壁を勇躍一人で登り、内側から閂を外して陥落させる快挙を成し遂げたという場面があるのだが、ここでは龍自身ロナンとして壁を登って喝采を浴びる。それが時間軸に沿って終盤に再度提示される際には、ロナンの姿はなく、他の登場人物は二階席あたりを見やるだけで、それは逆方向にロナンの姿を見つめているという演劇的設定なのだろうが、なぜそのような想像力の幻視にゆだねる方法をとったのだろうか。代役を立てる、映像を使う、カーテン等で後ろの城壁を隠すなど、様々な方法があっただろうに、あえて空間的混乱を招いた理由がわからない。その結果、最も盛り上がるべきシーンに主役がいない、ということになってしまった。

 また、続いてバスティーユを開放し、地下の弾薬庫を管理していたオランプの父親デュ・ピュジェ中尉(飛鳥裕)が現われ、王宮の軍隊に陥落の責任を追及されて撃たれそうになったところへ、ロナンが両者の間に走りこんで落命するのだが、主役の最期としてはバタバタとあっけなかった。

 要するに、ラストにかけて主役の見せ場になるべきところから最期のあっけなさが、この作品をよく表していたといえるのかもしれない。スケールの大きさを感じさせたのは、マリー・アントワネットであり、強烈な印象を与えたのは国王の弟シャルル・アルトワの美弥るりかや冷酷な将校ラザールの星条海斗である。

 では、ロナンの見どころはどこかというと、農民という下層階級の出身であり、当初は蜂起=革命の意味もよくわかっていなかった青年が、ロベスピエールやジャーナリストのカミーユ(凪七瑠海)との出会いによって革命の意義に目覚め、バスティーユ開放という重要な役割を果たすに至るという、成長物語においてのことである。オランプとの恋情においても、その成長過程は重要なファクターだ。ではそれは十分に描かれていただろうか。残念ながら、たとえば一点、ロナンが革命運動に対して、所詮本を読み大学に行っていたブルジョア諸氏のものであって自分たち貧しい農民のものではないという反発からいったん運動を離れ、また戻るに至る経緯の書き込みが浅いように思えた。ではどこを削ればいいのかと反論されたら困るが、潤色、演出の仕上げがやや荒いように思えて残念だ。

 龍は、歌声の伸びもみごとで、農民出身らしいチョコマカした姿から、革命の実行に向けて立ち上がる雄々しい姿まで、振れ幅の大きな役を好演したといえるだろう。粗衣をまとい、拷問を受ける(下写真。右は星条)など、宝塚のトップスターらしくない役ながら、気品を保ったのがすばらしい。愛希はマリー・アントワネットの無垢な高慢さ、 パリ移送後の家庭的な母親像を的確に演じ、宝塚のマリー・アントワネット像をまた一段大きくした。

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 「ベルサイユのばら」ではほとんど現われないネッケルを、重要な役として光月るうが好演。フランス革命の政治的な流れがよく理解できた。憎まれ役のポリニャックを憧花が王妃への真情あふれる存在として演じたことで、劇の襞が増した。競技場の場面でのボディクラップを使った斬新な群舞のスケール感、コーラスの力強さなど、組としての力もよく発揮。本当にすばらしい作品だったと思うので、もう少し丁寧に仕上げて改訂再演してほしい。
(舞台写真は日本経済新聞が運営するウェブサイト365日タカラヅカから)

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