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2015年8月11日 (火)

宝塚歌劇団雪組「アル・カポネ~スカーフェイスに秘められた真実」

2015.5.17.

 作・演出:原田 諒
 主演:望海風斗
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(大阪・梅田)

Alcapone


 アメリカのギャング、暗黒街の帝王、スカーフェイス(向こう傷のある顔)のアル・カポネを、雪組男役二番手格の望海風斗(のぞみ・ふうと)が、顔に傷をつけて演じるということで、望海の暗く激しい面を堪能できることと、大きな期待があった。望海はまず歌がうまい。深い声をベースに、ナチュラルなヴィブラートから意識的な絞り方まで、声のコントロールを駆使して、歌で的確にニュアンスを表現できる。

 今回それ以上に驚いたのが、顔の表情の複雑さだ。歌い終わったりセリフを言い終わったりした後に、たとえばニヤリと底意地悪そうに笑いながら、直後にさびしそうな翳りを見せるというような表情の変化を、ほんの数瞬のうちに見せることができる。最初それに気づいたときには、本当に驚いた。

 宝塚歌劇団の生徒  は、一定の技術は持っているのだが、それに独自の味わいや癖を加えることが乏しい。個々が独特の癖を存分に発揮しては、群舞やコーラスで揃わないから、極力お手本どおり、譜面どおりの、ある場合には味気ないフレージングに収まりきってしまう。

 ソロでふんだんに見せ場を与えられる立場まで上らないと、なかなか独特の癖や味を発揮することはできないが、望海もそのような位置に来たのだということ、だからといって皆が魅力的な味を出せるわけではない。ただ演技や歌がうまく、器用なだけの生徒ではなく、微妙な翳りや愛らしさを匂い立たせることができる、一流の男役になっていたことに、驚いたのだ。

 巨大な酒樽を組み合わせた、松井るみの舞台装置に、開演前から目を引かれた。樽が回転して部屋になったり、ほのかに木の香りが漂ってきたり、作品の空気をうまく作った。

 暗黒街の帝王を、少年時代から描き、収監された晩年になって、訪ねてきたシナリオライターに、書き換えろとは言わないが、お前にだけは真実の姿を知っておいてほしい、と言って過去にさかのぼるという設定。いざ時代をさかのぼってしまうとほとんど忘れてしまう枠組みだが、底流には淡い哀切が流れることになる、うまい設定だ。

 妻となるメアリーは、不幸な境遇のアイルランド系。大湖せしるが頑なな表情、夫を気遣う甘やかな姿態と、張り詰めた美しさの中に様々な揺れを見せ、存分に魅力を発揮した。アル・カポネを追い込む連邦捜査官エリオットという重要な役を演じたのが、若手の月城かなと。新人公演でも実力の確かさ以上に、スケールの大きな魅力を振りまいている。設定上、終盤しか出番がないのはやむをえないが、学生時代にアル・カポネと出会っていたというエピソードは、やや無理のある段取りだったように思う。むしろ、捜査の過程でアル・カポネを追い詰めていく姿を深く描いたほうが、ドラマとしても月城の魅力を発揮するためにも、よかったのではないだろうか。

 この作品は、第23回読売演劇大賞の作品賞・上半期ベスト5に選ばれ、評価も高かった。ストーリー自体は、Wikipediaに載っているエピソードに肉付けをした程度で、新味があるわけではないだろう。ひとえに、望海の歌の迫力と演技の襞の深さを引き出すことのできた手腕といえるだろう。演出の原田は、これまでシャンソン歌手のシャルル・トレネ、バレエ・リュスのニジンスキー、写真家のロバート・キャパ、スウェーデン国宝グスタフ3世と、歴史上の人物を題材にした佳作を送り出してきた。どの作品でも、主演男役の魅力を存分に発揮させている。宝塚は史実に基づいた名作を多数生み出してきた。一般的には必ずしも有名でない人物に、強度のあるドラマと、麗しい美意識を盛り込んで、観客にその存在を深く刻み込む作品たちだといえよう。次の人選が楽しみだ。

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