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2015年9月10日 (木)

能楽と現代音楽「未来の音風景(2)~舞囃子とコンテンポラリーダンス」

2015年6月9日

 作曲・ピアノ・演出・声・打楽器:久保洋子
 クラリネット:ドミニック・ヴィダル
 振付・ダンス:佐藤知子
 能楽:梅若猶義、越賀隆之、河村晴道、梅若基徳
 笛:赤井敬三、小鼓:成田達志、大鼓:谷口正壽

兵庫県立芸術文化センター神戸女学院小ホール(西宮)

 作曲家、大阪音楽大学教授で、ピアノをはじめ、パーカッション、謡曲、小鼓など様々なジャンルに挑戦している久保洋子の意欲的な公演の第2回目。

 まず、久保作曲のクラリネットとピアノのための「Vortex」(世界初演)は、クラリネットのノンアタックで始まる非常に静かな音の中に、ピアノがきらめく光のように入ってくる、冒頭から美しい作品。ピアノとクラリネットが、遠ざかったり近づいたりと、空間的に動いているようであるのが、興味深い。クラリネットのベルの部分(先の開いた部分)をピアノの大屋根の下に入れて大きな音を吹き、思い切り響かせてみたり、ひしゃげたり転がったりするような様々な音色を並べてみたりと、自在な演奏がスリリングだった。vortexは、渦、渦巻きという意味だそうだが、二つの楽器が絡み合って螺旋(spiral)を成すというより、近づいたり離れたりして複雑に絡み合いながら、並走して激しく流れていくような印象を受けた。

 続いて、能楽から「景清」の居囃子、久保と能楽の師に当たる越賀隆行、成田達志による鼎談、「紅葉狩」の中之舞の舞囃子(下写真。シテは梅若)と続く。
Momiji03

 鼎談では、前回の「鉄輪」、今回の「紅葉狩」と続けて鬼女ものを取り上げること、「紅葉狩」を取り上げるに当たっていろいろと迷いがあったことや、久保が学んできた西洋音楽と謡曲との考え方の違いなどについて、エピソードを交えながら興味深いお話があった。

 クラシック音楽対応の、音響のよいホールで能楽にふれると、音がよく響くのはいいのだが、音が回りすぎて息苦しいように思う。いうなれば、抜けがない。大鼓の音など、カンと打てばコーンと正面席上方に向かって放物線を描くように飛んでいく感じが好きなのだが、アリーナ形式で多角形のきっちりした閉鎖空間であるホールでは、音がしばらく滞留してしまっているようで、戸惑った。改めて能楽堂のいい具合に隙のあるゆるさが能楽の音空間にとって不可欠なものであることを知ったように思う。

 その後、久保の作曲・演出で、佐藤の振付、ハープやフルート、森充生・村上麻理絵のダンス、クラリネットのドミニックも加わって、「MOMIJIGARI」。

 久保はパーカッションとヴォイスで、紅葉狩の舞台となった山中の深い空気を定めるようだった。フルートとクラリネットが縺れ、久保がサイレーンのように声を発していると、ダンサーたちが登場する。久保も混じって、床に横になった森を踏みつけたり、森が佐藤を抱え上げたり、「紅葉狩」の筋を思わせるような場面展開となる。物語とダンスや音楽の距離感が、ワンクッションあって、なるほどと思われるぐらいの近さなのが面白い。小道具としての椅子の扱いも、その存在によって逆に各人の居場所の不安定さを強調するようで、アイロニカルだ。音楽は基本的には劇音楽のように物語の流れを速めたり遅らせたりし、ダンスもある部分では感情的な側面を膨らませたり、佐藤と森の関係を結構リアルに描いたりして、物語の流れ というものを中心の軸にして、音楽とダンスが不規則に周回しているようだった。時に近づき、時に遠ざかり、ぶつかりそうになるのが面白い。
Momiji02


 舞踊、音楽、物語の関係と効果という点で、なかなか完成度が高く、理想形に近づく道筋が見えてきたのではないだろうか。次回もまた楽しみだ。

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